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第14話  

夕方。

 森岡翔は、金持ちのイケメンらしい足取りで、金葉ホテルへと入っていった。

 「森岡社長、こんばんは!」

 「森岡社長、こんばんは!」

 入口に立っている4人の美しい受付嬢たちは、憧れの眼差しで森岡翔に挨拶をした。

 ホテルでは、森岡翔が新しいオーナーになるという噂がすでに広まっている。中村薫は、すでに支配人の業務を引き継ぎ始めており、前の支配人、村上洋一は荷物をまとめてホテルを去っていた。

 森岡翔がロビーに入ると…

 4人の受付嬢たちは、ひそひそと話し始めていた。

 「森岡社長、すごく若くてハンサムよね!」

 「そうよね!かっこいいし、お金持ちだし…私の理想の男性だわ」

 「森岡社長は、あんたのことなんて相手にしてくれないわよ!」

 「どうして分かるのよ?もしかしたら、私は森岡社長のタイプかもしれないじゃない!」

 「まさか。森岡社長が好きなのは、中村マネージャーみたいなタイプでしょう」

 「同じ料理ばかり食べてたら飽きるでしょ?森岡社長が気分転換したくなったら、私たちにもチャンスが巡ってくるわ」

 森岡翔は背後で交わされている会話には気づかず、ロビーへと進んでいく。すると、中村薫が駆け寄ってきた。

 「薫姉さん、どうしてまだここにいるんだ?支配人になるんじゃないのか?引き継ぎは済んだのか?」森岡翔は少し不思議そうに尋ねた。

 「森岡社長、すでに支配人の業務を引き継いでおります。今日は、お迎えするために、こちらでお待ちしておりました。こちらが運転免許証でございます」

 中村薫は、森岡翔に小さな手帳を手渡した。

 「ありがとう、薫姉さん。あなたは自分の仕事してて。俺は食事をして帰るよ。あ、そうだ、姉さんと義兄は、いつ暇かな?食事をご馳走して、お礼を言いたいんだけど」

 「分かりました!聞いてみます!実は、今、とても忙しくて…まだ分からないことだらけなので、今日は失礼させていただきます」

 中村薫は、フロント係の女性を呼んで、森岡翔を食事の席へ案内させると、自分は仕事に戻っていく。

 「森岡社長、こちらへどうぞ!」フロント係の女性が、恭しく言った。

 「大丈夫、一人で探せるから。君は仕事に戻って」

 「森岡社長、今日はお部屋を変えさせていただきましたので、ご案内いたします!」フロント係の女性は言った。

 「部屋を変える?なんで?」森岡翔は尋ねた。

 「森岡社長、昨日はお客様として3番の個室をご利用いただきましたが、今は会長様ですので、会長様専用のお部屋である1番の個室をご用意いたしました」フロント係の女性は説明した。

 「そうか。じゃあ、案内してくれ」森岡翔は、それ以上何も言わなかった。

 食事を済ませた森岡翔は、また江城を車で走り回った。空はすでに暗くなりかけていたが、江城は眠らない街で、多くの店が深夜12時まで営業していた。しかし、森岡翔は、どうしても気に入ったスポーツカーが見つからなかった。店員に聞いてみると…

 限定生産のスポーツカーは、発売と同時に完売してしまうため、ディーラーにはほとんど入荷しない。ごく一部の高級中古車販売店でのみ販売されていて、価格は定価よりもはるかに高額になるそうだ。

 森岡翔は考えた。自分の知り合いで、そんなコネを持っているのは、元金葉ホテルのオーナー、田中鷹雄くらいしか思い浮かばなかった。

 そこで、彼は田中鷹雄に電話をかけることにした。

 すぐに電話がつながった。

 「翔、もう湖城に来たのか?」電話の向こうから、田中鷹雄の声が聞こえてきた。

 「鷹雄兄貴、まだ江城にいるよ。実は、ちょっと頼みたいことがあるんだ。世界限定生産のスポーツカーを買いたいんだけど、何かコネないかな?」森岡翔は尋ねた。

 「翔も、限定生産のスポーツカーを集めるのが趣味なのか?」

 「鷹雄兄貴、男なら、車が好きじゃないやつなんていないでしょう?」

 「ははは…まあ、そうだな。翔、君はちょうどいいところに来たね。俺はちょうど、友達と一緒に車販売店を経営してて、中古車専門で商売してるんだ」

 田中鷹雄は、実際に友人たちと共同で中古車販売店を経営していた。しかし、彼の店では、高級車ばかりを扱っていて、2億円以下の車は扱っていなかった。

 「それは心強い!鷹雄兄貴、俺に合いそうな車、探してくれないかな?」

 「翔、ちょうどいい車があるぞ。3年前に発売された、ブガッティシロンの限定モデルのスーパーカーだ。世界で8台しか生産されていない。当時の販売価格は12億だったが、限定モデルなので、価格が少し上がって、16億くらいになる。どうだ?」

 「いいね。鷹雄兄貴、写真ある?2、3枚送って。見てみたい」

 「ああ、後で送るよ。お前にピッタリな車だと思うぞ。これを江南大学に乗りつけたら、注目を集めること間違いなしだ」

 「ははは…やっぱり鷹雄兄貴は、俺のことがよく分かってるな!じゃあ、すぐに振り込むよ!」

 「翔、湖城まで車を取りに来るか?それとも、輸送する?」

 「ゴールデンウィークに取りに行くよ。ちょうど、その時期に湖城に行く用事があるんだ」森岡翔は言った。

 ゴールデンウィークに、従妹の山下美咲に会いに行こうと思っていた。ついでに、美咲の生活レベルを上げてやろう。電話では説明しにくいこともあるし。

 森岡翔は、すぐに16億を田中鷹雄に振り込んだ。今や、彼にとって金はただの数字に過ぎなかった。

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